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​エーラス・ダンロス症候群の遺伝子検査は意味がない?

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このページの結論:

エーラス・ダンロス症候群はさまざまな型がありますが、最も多いのは関節型です。

エーラス・ダンロス症候群の患者さん全体の90%以上の患者さんが関節型です。関節型は遺伝子が判明していないので検査は陰性になります。

エーラス・ダンロス症候群にはさまざまな型があります。​睡眠障害と自律神経失調症の併発症状が記載されているのは関節型のみです。つまりは当団体の患者さんはほぼ100%関節型です。

エーラス・ダンロス症候群は関節型以外にも型がありますが、関節型以外の型でもその遺伝子が発見される確率は100%ではありません。例えば、古典型と血管型ですが、それらの遺伝子も100%正確に発見できるものではないことがさまざまな研究文献で示されています。従って、遺伝子検査が陰性でもエーラス・ダンロス症候群の可能性があります。

また、一般人口の健康な人もエーラス・ダンロス症候群の遺伝子を保有していることがあるため(検査の偽陽性)、エーラス・ダンロス症候群の遺伝子検査が陽性だからといってエーラス・ダンロス症候群であると決めつけることはできません。

従って、関節型の診断の場合、そもそも遺伝子検査を受けても何も判明することはなく、また、関節型以外の型の場合にも遺伝子検査結果が陽性でも陰性であってもどちらにしろ結局は診断がわからないということで遺伝子検査の意味がないのです。

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エーラス・ダンロス症候群の診断に関して、海外では「エーラス・ダンロス症候群の診断に遺伝子検査は必要ない」という意見が優勢になりつつあります。

一方で日本国内で特に英語が読めない患者さんの間で)この説が全否定されがちな傾向です。

「エーラス・ダンロス症候群の診断に遺伝子検査は必要ない」

という件に関して、下記で論拠を提示します。

関節型に関して

エーラス・ダンロス症候群の全体の約90%以上の患者が関節型/過可動型であります。

”Because hEDS is the most common type, accounting for more than 90% of all cases of EDS, most people with EDS will not need genetic testing for diagnosis.”

https://www.ehlers-danlos.com/genetics-and-inheritance/#1674754833562-ed50979d-69ba

関節型/過可動型は原因遺伝子が判明していませんので遺伝子検査をする必要はなく、臨床症状での診断となります。

"Because the genetic cause(s) of hEDS have not yet been identified, there is no genetic test for hEDS. hEDS is diagnosed when a person meets the clinical diagnostic criteria."

https://www.ehlers-danlos.com/genetics-and-inheritance/#1674754833562-ed50979d-69ba

併発症状に「睡眠障害」が記載されているのが関節型/過可動型です。引用元

従って、当団体が主な支援対象としている「睡眠障害や自律神経失調症などの体調不良を併発するエーラス・ダンロス症候群の患者さん」はほぼ全員が関節型/過可動型(遺伝子を検査しても意味がない型)です。

そもそもエーラス・ダンロス症候群を疑われる90%以上の患者が遺伝子が判明していない時点でエーラス・ダンロス症候群全体の90%以上の患者に遺伝子検査の意味がないことがお分かりいただけると思います。

また、関節型以外の原因遺伝子も判明しないことがあります。更に日本国内では保険が適応される範囲内で受けられる遺伝子検査の範囲が限られています。

古典型と血管型に関して

下記に古典型の患者さんの場合でも約50%の方が遺伝子検査が陰性であるとの報告があります。

"If you have EDS Type I or Type II, genetic testing is usually available through a blood test. But, the genetic test only finds about 50% (1 out of every 2) of cases. Your geneticist can also diagnose this type of EDS without testing."

https://www.massgeneral.org/children/ehlers-danlos-syndrome/genetic-testing-for-ehlersdanlos-syndrome

古典型​の遺伝子に関しまして、下記のサイトの情報では90%以上が陽性(10%未満が陰性)となっております、どちらにしろ100%ではないということです。

"More than 90% of those with cEDS have a heterozygous mutation in one of the genes encoding type V collagen (COL5A1 and COL5A2). "

https://www.ehlers-danlos.com/eds-types/

下記の情報によりますと古典型は50−90%であり、血管型は95%です。

2.3 Clinical sensitivity (proportion of positive tests if the disease is present)

The clinical sensitivity can be dependent on variable factors such as age or family history. In such cases a general statement should be given, even if only a quantification can be made case by case.

Clinical sensitivity is highly dependent on the EDS type based on fulfilment of the clinical criteria as well as of the biochemical and ultrastructural dermal findings documented in the Villefranche nosology:12

  • It is 50–90% for EDS type I/II (COL5A1 and COL5A2 gene),34 which is genetically heterogeneous with additional, still unknown gene loci.

  • It is 95% for EDS type IV (COL3A1 gene),6 EDS types VIIA and VIIB (COL1A1 and COL1A gene, respectively) and EDS type VIA (PLOD1 gene).7

  • Sensitivity is not known in the recessively inherited clinical entities including Brittle Cornea syndrome 1 and 2 (ZNF469 and PRDM5 gene),11 D4ST1-deficient EDS (CHST14 gene),8 FKBP14-deficient EDS,12 dermatosparactic type (ADAMTS2 gene),9 EDS progeroid form (B4GALT7 gene) and EDS spondylocheiro dysplastic form (SLC39A13 gene).10

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3533317/

それ以外の型に関して

ちなみにですが、

エーラス・ダンロス症候群の主要の型は①関節型②古典型③血管型となります。

​これら3つ以外の型は100万人に1人未満と言われており、かなり珍しいです。

Aside from hEDS, the other types of EDS are rarer than 1 in 5000. Classical EDS has a prevalence of 1 in 20,000–40,000. Vascular EDS has a prevalence of 1 in 100,000–200,000. Other types of EDS affect less than 1 in a million or are ultra-rare in that they affect small numbers of individuals and families (Malfait et al., 2017).

https://www.ehlers-danlos.com/is-eds-rare-or-common/#:~:text=Classical%20EDS%20has%20a%20prevalence,et%20al.%2C%202017).

上のEDS SOCIETYのウェブサイトの情報を元に下記にエーラス・ダンロス症候群の各型別の人口比率をまとめました。

人口100万人中

関節型 約180人​より多い

古典型 約25ー50人

血管型 約5ー10人

その他 約1人未満

です。​

エーラス・ダンロス症候群の診断を受ける患者さんのほぼ100%が関節型、古典型、血管型のどれかということです。

引用元の詳しい説明はこちらのページをご覧ください。

関節型 V S その他の型  = 180より多い VS 1未満 ですので、関節型の症状を呈していて他の型の症状をそもそも呈していない患者さんに100万人に1人以下の遺伝子の検査をする必要があるのでしょうか?という前提的な疑問があります。

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また検査上で関節型以外のエーラス・ダンロス症候群の原因遺伝子が検査で検出され、遺伝子検査が陽性の場合もその同一遺伝子が一般人口にも一定数存在する場合(偽陽性)があります。

血管型は遺伝子検査の偽陽性/偽陰性が報告されています。

It is important to note that genetic testing for Vascular Ehlers-Danlos Syndrome is not always accurate, and false-negative and false-positive results can occur.

https://discoverceliprolol.com/what-is-vascular-ehlers-danlos-syndrome/

下記のウェブサイトはエーラス・ダンロス症候群の全ての型の遺伝子で偽陰性と偽陽性の可能性があると記載されています。

Technical Limitations: Next-generation sequencing may not detect all types of genomic variants. In rare cases, false-negative or false-positive results may occur.

https://logan.testcatalog.org/show/EDSGG

Analytical specificity is nearly 100% because false positives may at the most arise due to misinterpretation of rare polymorphic variants.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3533317/

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遺伝子検査の豆知識ですが、遺伝子検査の結果には

 

■ Pathogenic

病原性の病因の    (有害遺伝子)

■ Likely pathogenic

多分、病原性の病因の (多分、有害遺伝子)

■ Likely benign

多分、無害安全な   (多分、無害遺伝子)

■ Benign       

無害安全な      (無害遺伝子)

■ VUS(variant of uncertain significance)(臨床的意義不明のバリアント)

 

の合計5グループがあります。

もしも発見された遺伝子がPathogenic(病原性の病因の)(有害遺伝子)の場合でも

 

■ 浸透率 penetrance(ある遺伝子に病気をもたらす変異がある人たちにおいて、その変異が関与する病気が実際に発症した人の割合)

 

が100%ではなければ、その遺伝子を有していても、発症をしていない健康な人が存在するというところです。普通の一般の人が有している普通の遺伝子です。

 

「Pathogenic(病原性の病因の)遺伝子が見つかったと仮定しても、その遺伝子の浸透率は100%ではないのではないですか?」

「それではその遺伝子が本当にその症状の原因であるという証明ではないですよね?」

「特に、睡眠障害や自律神経失調症などの関節型エーラス・ダンロス症候群の症状を呈していて、他の型の症状を呈していない患者さんの場合はそのようになりませんか?」

「それではその検査の意味はないのではないですか?」

と検査を勧めて来られる方に問い詰めていくと遺伝子検査の意義に関する事実がご理解頂けるかと思います。

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これらの事実を総合して合理的に考察した場合、関節型の疑いにしろそうでないにしろエーラス・ダンロス症候群疑いのある患者さんは遺伝子検査を受けても何もわからない(検査が陽性であってもエーラス・ダンロス症候群ではないこともあり、陰性であってもエーラス・ダンロス症候群の可能性があるので検査結果が陽性でも陰性でもどちらにしろ決定的な診断ができない)のです。

従って、エーラス・ダンロス症候群は診断を受けることのみが目的の場合、遺伝子検査が陽性であるか陰性であるかの遺伝子結果は診断上では何も意味をなさず、その場合に臨床症状で診断をすることとなります。

ちなみにエーラス・ダンロス症候群の遺伝子検査についてEDS SOCIETYのウェブサイトに下記に記載がありました。

If a person meets the clinical diagnostic criteria for a type of EDS other than hEDS, genetic testing should be done to confirm the diagnosis. Because the genetic cause(s) of hEDS have not yet been identified, there is no genetic test for hEDS. hEDS is diagnosed when a person meets the clinical diagnostic criteria.

Because hEDS is the most common type, accounting for more than 90% of all cases of EDS, most people with EDS will not need genetic testing for diagnosis. It is not necessary for a person with hEDS or HSD to have genetic testing unless there is reason to suspect that they may have a genetic disorder for which testing is available.

https://www.ehlers-danlos.com/genetics-and-inheritance/#1674754833562-ed50979d-69ba

(関節型以外のエーラス・ダンロス症候群の診断基準を満たしている場合は遺伝子検査を行うべきであるが、関節型の場合は行う必要がないということです。エーラス・ダンロス症候群全体の90%以上が関節型なので90%以上の患者には遺伝子検査は必要ありません。)

海外では遺伝子検査を行わずにエーラス・ダンロス症候群の診断を行うことがあります。

実際に最近は日本でも関節型のエーラス・ダンロス症候群は遺伝子が検査で検出されない場合でも難病指定が取得できるようになりました。当団体には遺伝子が判明していない遺伝子が検出されていない関節型の患者さんでも実際に難病指定を取得されている患者様がいらっしゃいます。

エーラス・ダンロス症候群の診断に遺伝子検査が意味があるように主張をしてくる医療関係者の方もいらっしゃいますが、特に当団体が主な支援対象としている睡眠障害を併発する関節型/過可動型の患者さんに対しては「エーラス・ダンロス症候群の遺伝子検査は診断上意味がない」という主張の方が論理的で筋の通った理論であり、上記の通りで論理的に問い詰めても医療関係者から有意義な回答が得られることはない状態です。

もしもこの件に反論される医療関係者の方がいらっしゃった場合、是非、下記のように問い詰めてみてください。

客観的な研究論文や有意義な回答が何も出てこないことがご確認いただけます。

「上記の通り、関節型以外の型でも検査の偽陽性と偽陰性が報告されているわけですよね?」

「検査が陽性でも陰性でもどちらにしろ結果がわからないなら、検査する必要なくないですか?」

「これだけ色々なデータが揃っているのに関節型のエーラス・ダンロス症候群の疑いの患者さんへ遺伝子の検査をする必要があるという客観的な証拠はありますか?」

「そもそも睡眠障害と自律神経失調症は関節型の診断基準にしか記載されていないんですけれども、それでも​関節型以外の他の型を疑う必要がありますか?」

それでも反論してくる場合

「何度も聞きます。具体的な研究発表はどこにあるのかと聴いてるんです。」

話をすり替えないでご解答ください、上記の件に反論を呈した具体的な研究発表はどこにありますか?」

と10回くらい問い詰めてみましょう。

問い詰めてみると結局はその論拠となる具体的な研究は存在しないことがご確認いただけます。

(*エーラス・ダンロス症候群は医療関係者が間違えた知識を持っていて正しい知識を自信満々に否定してくることが普通です。

エーラス・ダンロス症候群が疑われる患者さんには医療関係者に言われたことを鵜呑みにするのではなく、患者自身が正しい情報の見極めや取捨選択を行う能力を備えておく必要があるとお伝えしています。)

関節型エーラス・ダンロス症候群の診断に遺伝子検査が必要である理由は難病指定と身体手帳を取得する上で日本の医療制度が遺伝子検査を必須としているので必要であることです。「日本の社会福祉/医療制度上で必要」ただそれだけです。​

「高額な遺伝子検査費を払って​、結果が陰性でも陽性でも、どちらにしろ臨床症状で診断を受けるならば、先に臨床症状の検査だけすれば良いのでは?」というのが合理的な主張です。

ただしエーラス・ダンロス症候群の遺伝子検査に診断上の意義がなくても「将来の医療の発展のための研究貢献」という大きな意義があると思いますので、当団体はどちらにしろ

エーラス・ダンロス症候群の疑いの患者さんらに遺伝子検査を受けることを勧めています。

ちなみにこの遺伝子検査には本当に診断が必要な患者さんを選別する意義もあると思います。

例えば、過眠症にも患者の診断に数万円の自己負担がかかる無意味な検査を受けさせる制度があります。

過眠症の診断に使用されるMSLT検査は一般人口の22〜30%が陽性になり、再現性が乏しく、一度陽性であった患者さんでも再度検査を受けると半数以上の患者さんの診断名が変わってしまうものです。

https://note.com/kaminshousupport/n/n54af7951cb54

https://note.com/kaminshousupport/n/n5565865b2b5a

過眠症は詳細で特異的な症状が定義されているエーラス・ダンロス症候群と違い症状が特異的ではなく(眠気は誰でも感じるもの)で、実際、過剰診断がされています。過眠症は診断を受けようと思えば誰でも診断が受けられるので、過眠症の患者会でも「世の中全員が過眠症」と揶揄されています。過眠症に関しては数万円の検査費用を払ってでも診断を受けたいかどうかというところで度胸試しをされている側面がある(=そういう意味での検査は必須である)と思うことがあります。

そういった意味ではエーラス・ダンロス症候群の高額な遺伝子検査も「本当に診断が必要な患者の選別には必要である」ということなのかもしれません。もしもエーラス・ダンロス症候群の診断に高額な遺伝子検査がなければ、誰もが簡単に診断を受けられてしまうことになり、それは問題だと思います。

 

2023年度、信州大学のエーラス・ダンロス症候群の新規受診外来が半年待ちであるという情報をいただきました。

 

現在のエーラス・ダンロス症候群の医療現場の状況は

診断を受けようとしている患者の人数>病院で診断ができる人数

となりつつあるため、

 

当団体では難病指定と身体手帳の取得を目的としていない症例で睡眠障害や自律神経失調症の症状を呈している患者さんの場合には遺伝子の検査なしでも遺伝子診療科以外の医療機関でエーラス・ダンロス症候群の診断が受けられる制度を構築し広めていくつもりで活動しています。

もしくは睡眠科のお医者さんがエーラス・ダンロス症候群の遺伝子検査ができる制度が構築できれば良いとも思います。

(※当団体は過眠症の団体が運営しています。当団体について​。当団体の活動目標。)

日本国内でも難病指定や身体手帳の取得を目的としていない場合に遺伝子検査なしで診断をする病院が存在します。

遺伝子検査なしのエーラス・ダンロス症候群の診断は海外ではまかり通っている制度です。

日本だから通せないというのは理解ができません。

このページはこれからエーラス・ダンロス症候群の診断を受けようとしている患者さんに向けて、当団体が今まで得ることのできた情報を元に患者さんに有益なアドバイスとなりえるであろうと思われる事項をまとめたページです。

 

もしもこのサイトに記載していあるよりも多くの情報をご存知の方は論拠となる客観的な情報ソースとともにご提供ください。

​現在のエーラス・ダンロス症候群の診断基準についてこちらのページにまとめました。

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